中国では毎年1,300万人以上が受験する、全国統一の大学入試「高考(ガオカオ)」。
高考の熾烈さは、私たちの想像をはるかに超えています。
さらに、出身地によって合格の難易度が変わる「地方格差」という問題も。
親が子どものために引っ越して支える「陪考(ペイカオ)」という現象もあり、その背景には複雑な社会事情が広がっています。
今回は、中国を10年以上にわたり取材してきたジャーナリスト・中島恵さんにインタビューしました。
高考の実態、そしてその先にある中国の若者たちの「日本への憧れ」について、詳しく伺いました。
1967年山梨県生まれ。
北京大学、香港中文大学に留学後、新聞記者を経てフリージャーナリストに転身。
主に中国や東アジアの社会事情を取材し、これまでに中国に関する著書を16冊刊行している。
「プレジデント・オンライン」「Yahoo!ニュース」「現代ビジネス」などの主要オンラインメディアにおいて多数の記事を執筆。
テレビ朝日をはじめとするテレビ番組にも出演し、コメンテーターとしても活躍。
10年以上にわたり在日中国人の生活やコミュニティの実態にも深く切り込んでいる。
公式ブログ:ジャーナリスト中島恵のブログ

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この記事を読むことで、「高考」が中国社会や若者の人生にどれほど大きな影響を与えているのかがわかります。
また、日本との違いや、そこから見えてくる中国人の価値観や日本へのまなざしについても理解を深められます。
取材日:2025年4月26日

このサイトの管理人、茜です。
1995年生まれ、滋賀県出身。現在は東京在住。
大阪大学外国語学部ドイツ語専攻卒業。
マッチングアプリで出会った中国人男性(高考経験者)の健と1年間の交際を経て、2023年に結婚。
YouTubeチャンネル『日中夫婦 健&茜』で、中国文化・中国語学習・国際結婚などをテーマに発信しています。
中国のSNSを含めた総フォロワー数は7万人以上、累計再生回数は4,000万回を突破。
\動画にも出演いただきました!/
10年分の受験生が一斉受験した年も!中国の大学入試が熾烈な理由


— 中国の大学受験がとても熾烈だと聞きましたが、詳しく教えていただけますか?
中島さん:そうですね。
今も昔も厳しいですが、とくに歴史的に見ても異常な時期がありました。
文化大革命中は大学受験そのものが停止されていて、10年ほど受験制度が無かったんです。
その後、大学受験が再開された1977年〜79年あたりは、その「10年分」の受験生が殺到しました。
あの時代に大学に合格した人たちは、今でも「選ばれた世代」として語られます。
健(中国人・高考経験者):僕も受験経験者ですが……
正直、思い出すと沈みます(笑)。夢に出るくらい辛かったです。
中島さん:今は大学進学率が上がり、誰でも大学に行ける時代に見えますが、だからこそ「どの大学に行くか」の競争が激しいんです。
2019年の受験者数は1,030万人、2024年には1,342万人に増えました。
— 日本の人口の10分の1くらいいるのでは……すごい数ですね。
中島さん:中国では浪人が一般的ではなく、基本的に一発勝負。
でも最近は再受験者や仮面浪人も増えていて、競争のプレッシャーはさらに高まっています。
「生まれた場所で合否が変わる」中国大学受験の地方格差とは?


— 中国の大学受験って、出身地によって難易度が変わるって本当ですか?
中島さん:本当です。
人口の多い省では競争が激しく、逆に人口の少ない省や少数民族地区は優遇措置があります。
健:僕は安徽省出身なんですけど、人口1億近くて、しかも漢民族なので優遇されないんです。
正直、損してる感じはありました。
— そんなに人口いるんですね…それじゃ競争もすごそう。
中島さん:2024年の大学受験者数は1,342万人。
そのうち最多は河南省で136万人、次いで山東省が100万人、河北省が88万人。
安徽省や広東省も上位です。
— じゃあ逆に少ないところは?
中島さん:最も少ないのはチベット自治区で3万9,000人。
次が上海で5万8,000人、北京が6万8,000人。
少数民族が多い地域や大都市では、受験者数が少ない上に地元枠もあるので有利ですね。
— 私の同僚の中国人も「自分が少数民族なら北京大学に入れた」って言っていました。
健:同じ大学でも、出身地によって必要な点数が全然違うんです。
僕、上海出身の人と比べて、200点上じゃないと受からないとかありましたよ(笑)。
「朝5時半から夜10時まで」中国高校生の過酷すぎる日常とは?


— 中国でいい大学に行くには、高校生活がめちゃくちゃ厳しいって聞いたんですけど…。
健:本当に地獄でしたよ(笑)。朝5時半に起きて、夜10時までずーっと勉強。
3年間ずっと続きました。
— えっ、部活は?
健:無理です(笑)。
都会の子は塾に行くけど、地方だと学校に残って勉強。
寮生活でも部屋でまた勉強です。
中島さん:親が子どものために学校の近くに部屋を借りて、一緒に暮らすこともあります。
これを「陪考(ペイカオ)」って言います。
— そこまでして受験に全力なんですね…。
中島さん:それだけ「高考」は重要なんです。
中国では人生の選抜試験とも言われていて、基本的には点数勝負なので比較的“公平”なんです。
— でも出身地によって合格ライン違うんですよね?公平とは言えないような。
中島さん:確かに不公平に見える部分もありますが、全体で見れば点数次第で誰でも北京大学を目指せる。
それはやっぱり公平なんですよ。
健:不公平なんだけど…中国で生きていくこと全体で見ると公平なんです(笑)。
なぜ中国人は東大と早稲田に惹かれるのか?公平性と“ブランド”の魅力


— 日本の大学の中でも、東大と早稲田は中国人に特に人気ですよね。
中島さん:やっぱり“ブランド”ですね。
東大は日本で一番の国立大学だし、早稲田は中国共産党の創設メンバーの何人かが留学してた歴史もあって。
— 中国では、少し前までは東大が北京大学より上だと思われていたと聞きました。
中島さん:実際、ランキングでは今は清華大や北京大が上。
でも東大は「全国一律の入試で最も優秀な人が行く」という“公平性”が魅力なんです。
— 北京大学は出身地によって入りやすさが違うんですよね。
中島さん:そう。
地方出身者には厳しいから、「東大の方がむしろチャンスがある」と思ってる人もいます。
競争率も人口的に10分の1くらいですからね。
— では、早稲田がそんなに人気なのはどうしてですか?
中島さん:中国では仲介業者が「お金を払えば必ず早稲田に合格させます」って売ってることも…。
実態は不明ですが、そういう話は聞いたことがあります。
「学歴ロンダリング」と呼ばれる理由――中国人が日本の大学を目指す背景


— 中島さんの本で「学歴ロンダリング」という言葉が出てきたのが印象的でした。
中島さん:あれは9年前の本ですね。
実際そういう面もあります。
中国で大学入試(高考)に失敗した人が、一発逆転を狙って日本に来るケースがあるんです。
日本は大学によって二次試験の日程が異なりますが、高考は年に一度しか受けられないんです。
なので体調不良で失敗すると、人生が一気に変わってしまう。
だから日本に来て、ゼロから日本語を学んで私立大学に入る。
競争率が中国の10分の1とも言われています。
— えっ、日本語をゼロから学んで受け直す方が楽と感じるんですか?
中島さん:一部の人にとっては、そうです。
中国の大学を出ても就職できないケースも多くて。
博士を取っても職がないんです。
「内巻」っていう言葉があります。中国の不条理な競争社会を表す言葉ですね。
例えば、地方の公務員試験に何万人も応募するとか、大学の警備員ですら院卒じゃないと採らない、なんて話も。
健:僕の先輩も日本で働いたあと中国に戻って、また日本に帰ってきました。
中国の競争社会に耐えられなくて。
中島さん:最近は中国語だけでも日本の中国系企業で働けるので、日本の方が生きやすいと感じる人も増えてますね。
「日本の生活はアニメみたい」中国の若者が日本に憧れる理由


— 健くんのいとこが、日本留学に興味を持っているんです。
中島さん:今の若い世代は、「勉強しに行く」より、「日本で暮らしてみたい」という気持ちが強いんです。
「日本の生活って、まるでアニメみたい」とよく言われます。
コンビニでお菓子を買って帰る、そんな日常も彼らには特別に映るんですよ。
— 確かに、部活とか学校生活にも憧れてるって聞きます。
中島さん:吹奏楽や書道の部活は、アニメでもよく登場するので人気ですね。
日本の美術系学科も充実しているので、アニメやゲーム制作を学びたいという子も増えています。
それに、今は高校から来るケースも多くて、教育移住で家族ごと引っ越す例もあります。
もう「留学」は特別なことではないんですよ。
— 留学の背景も、どんどん変わってきてるんですね。
中島さん:そうなんです。
日本に来る人はだんだんと低年齢化していますね。
日本でも、また中国人による競争が始まるのかもしれません。
— すごくリアルな話が聞けました。今日はありがとうございました。
健くんのいとこにも伝えます!
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